-第二章・暴走、白木さんの恐怖!-(後編)




27:幼馴染み/千景視点

翌日も、よく晴れて。
出掛けに気持ちよく洗濯物を干してから、俺は家を出た。
と、そこで丁度、向かいに住む幼馴染みも家を出て来る。

「あ、千景じゃない。今日は早いのね?」
「うん、日直なんだ」
パッと表情を明るくして、小走りで寄ってくる彼女に、俺は笑みを向けた。
肩程までの髪を、左右均等に縛った可愛らしい彼女は、俺の幼馴染みだ。
名前は、晴海清花。
どこか、美弥と雰囲気が似ているかもしれない。
結構この近所では美少女なのだけど、空手三段、柔道初段の彼女に「悪い虫」はなかなか寄りつく事はない。
今も、ジョギングにでも行く途中だったのだろう。
ジャージ姿がとても似合っている。

「清花と朝話すのって久しぶりだね」
「そうねー。私たちって電車の時間合わないもんね」
彼女は、西埜学園とは反対方向にある、樋ノ上高校に通っている。
樋ノ上高校はスポーツ校で、彼女自身も、スポーツ推薦で入学している。

「それにしても…アンタも馬鹿よねぇ。たかが一人暮らしの為に、そんな……」
と、彼女が呆れたような視線で見るのは、俺の格好。
……………まぁ、言われても仕方がないのだけど…。
顔が熱くなるのを感じながら、俺は視線を下に落とした。
「母さんも兄さんも、過保護すぎるんだよ。だから一人暮らしして、俺はもう大丈夫だって証明しないと」
「……あのこと、まだ気にしてるの?」
あのこと、と言う単語が出てきて、ドキッとした。

思い出したくなくて、すぐに顔を上げて彼女の言葉に答える。
「もう、こんな話今はやめようよ。俺、電車の時間あるから先行くね」
「あ、ちょっと…!」
彼女の声が聞こえたけど…引き留めるように、手を伸ばしているのが分かったけど。
俺は、聞こえない振りをして、知らない振りをして走った。

今日は早朝だからだろうか。
少し、霧が出ていて、肌寒い。
濃霧とまでは行かないけど、前が少し霞がかる程度の霧を掻き分けながら、俺は、駅へ向かって走った。
あの光景を、思い出したくなくて、全力で。


不思議と、疲れは感じなかった。










28:優しい笑顔/千景視点

校門付近まで差し掛かった所で、見慣れた背中を見つけた。
自然と、顔が綻ぶのを感じる。
昨日、タバコをやめてくれたと言う事実が、嬉しくて。

「おはよう、悠斗」
思わず声を掛けると、彼は少しビックリしたように振り返った。
だけど、少ししたら穏やかに笑って、
「おはよう」
と、返事を返してくれた。


………あ。
なんか、今やっと初めて、悠斗が笑った顔を見た気がする。
笑うと…結構、優しいんだな…。
なんか、全然………笑ってる方が、格好いい…。


しみじみと感じながら、足を止めて待っていてくれている悠斗の隣に並んだ。
「悠斗、今の笑顔、すごく優しいよ」
「………笑ってた、か?」
「うん、ニッコリと」
いや、ニッコリまではいかないかもしれないけど…。

自分で自分にツッコミながら、俺は、何だか暖かい気持ちに嬉しくなった。
自然と笑みがこぼれているのが分かる。

…一緒にいて、こうして笑顔になれるのが、友達なんだろうな…。
良かった…なんだか、悠斗と上手くやって行けそうだ。

悠斗は、何故か少しだけ顔を赤らめながら俺の隣を歩いていた。
笑顔を見られたのが恥ずかしかったのかな…?
照れなくたって良いのに。









29:気になる視線/千景視点

に、しても…。
なんだかさっきから、異様に見られている気がする。
所々からは、ヒソヒソと何か話しているのも聞こえる。
そして、目が合うと慌てて逸らされる。
……そんなに、俺と悠斗が一緒にいると、おかしいのかな…?

視線に疑問を感じつつも、教室へ向かう。
教室へ行くにつれて、何だか視線も酷くなってきた。
……なんなんだ…?

「おはよう」
愛想ばかりに言いながら教室のドアを開けると、一気に室内のざわめきがピタリと止んだ。
代わりに、痛いほどの視線が俺と悠斗に集中する。
「………なに…?」
異常な視線に少したじろぎながら問いかけると、クラスの子の一人が口を開いた。
「玄関の掲示板…見れば分かる…よ……」

掲示板……?
そう言えば、視線ばっかり気にして見られなかった…。
悠斗の方へ目を向けると、彼も同じみたいで、キョトンとした表情を浮かべている。

これは……確かめるしかない、か…。


鞄だけを机の上に置いて、俺は悠斗と一緒に玄関の掲示板へ向かった。
相変わらずの視線を感じながら。


玄関の掲示板には、連絡事項や、学校新聞などが貼られている。
結構な人だかりが出来ていたので、少しウンザリしながらも、俺は悠斗と一緒に人混みを掻き分けた。
でも、俺は身長が小さすぎて、どうしても掲示板を見ることが出来ない。
「〜っ………悠斗、見えるー?」
「………………ああ」
…?なんか、変な間があったな…。
それになんか、口調も辺だ。
しかも、それ以上は語ろうとしない。

一体なんなんだ…と、首を傾げていると、漸く人混みから抜け出せた。

そして。
掲示板を見て、絶句した。
正確には、掲示板に張り出されていた、学校新聞。


ゴシックの文字で、デカデカと書かれた記事には、ご丁寧に写真も添えられている。
そこに、映っていたのは、なんと。


悠斗が俺を口説いている写真だった。









30:提供者は…/悠斗視点

デカデカと貼り付けられた記事に、千景と二人揃って言葉を失った。
俺が、千景を口説いている……いや、口説いているように見える写真だ。
あの入学式の時の事ならまだしも、風景から見て屋上のようだし。
何より、頬に手を添えてソッと口説く…なんて、生やさしい物じゃなかった。

……まぁ、それは良いとして。

「コレ…って、昨日の…?」
言葉を失っていた千景の口から、漸く言葉が漏れた。
驚愕に溢れた声音に、普段なら苦笑を返している所だが、生憎と今の俺にもそんな余裕はない。
「たぶん…な…」
やはり驚愕に溢れた声で、その言葉を返すのが精一杯だった。

どうにか状況を飲み込もうと、昨日の出来事を思い出す。
確か……そう、俺が、千景の口周りに付いていた食べかすを取ってやったんだ。
でもその後、「子供扱いされてるみたいでイヤだ」とすぐに怒られて、謝った。
勿論その場には、ちゃんと斎藤がいた。
なのにどういう訳か、写真には斎藤は写っていない。
恐らく、丁度死角になるところに座っていたのだろう。


食べかすを取っているだけなのに、どうしてこんな風に映るのか…。
その写真のとどめ、と言わんばかりに、ゴシックのハッキリとした文字は、何とも言い難い記事を綴っていた。

俺と千景が、入学式から一日しか経っていないと言うのに、登下校を共にし、名前で呼び捨てし合っている事。
二人でいる時間が多いこと。
同じ部活に入ると言うこと。
二人で弁当を食べ合う仲だと言うこと……等々、他にも様々な事が、新聞記事らしく脚色されて書かれていた。

そして、その最後を締めくくっているのは、写真と情報提供者の名前…。

「白木…真琴……」
思わず、ボソリと読み上げた。
俺の言葉に、千景は目敏く反応する。
「白木真琴…って、あの、昨日の…?」
「千景の所にも行ったのか」

どうやら彼女は、千景にもあの勢いでインタビューしたらしい。
なんとなく…話が読めてきたな…。



31:俺の予想が正しければ…/悠斗視点

「どうする…? すぐに誤解解きたいけど…」
「下手に言い訳すると勘ぐられて、かえってアレだろう。今の注目された状態も…色々と都合が良くないし」
と、千景の問いかけに答えながら、周りに視線を向ける。
周りからはまた視線が集まっていたようだが、俺たちと目が合うとサッと逸らした。
……理由は分かっていても、こうした形の視線を集めるのは…ちょっと…いや、かなり不快だ。
それにしても、ここは少し人目に付きすぎるな…。

「とりあえず、人気のない所で話そう」
「あ、うん…そうだね」
周囲から注目を集めていることにやっと気が付いたのか、千景はハッとしながら俺の言葉に頷いた。



ここは、旧校舎の空き教室。
鍵が開いていたので少し借りさせてもらった。
丁度、窓からは満開の桜が見える。
だが、その桜と俺たちの心は、まるで正反対だった。

「これ以上付け回されると、俺たちの秘密の事がバレるのも時間の問題だな」
「うん…」
注目はそれほど集めていない、今の状態だからこそ秘密が保てるのだ。
何日も監視されるような生活を送れば、それだけバレる可能性が高くなる。
俺も千景も、それだけは避けたい所だ。

「いっそ、人の注目集めてる所で友達宣言するとか?」
「あの子がソレで諦めてくれそうに見えるか…?」
「………見えない…」
友達宣言なんかしようものなら、更に付け回されるのが容易に想像出来る。
かと言って、今の状態のままで良いはずがない。

どうしたものか…と、考えていると、ふと、窓の外に見覚えのある少女が見えた。
キョロキョロと、どこか人の視線を気にしながら裏庭を歩く、その少女は…。
「あれ…? 白木さんだ…」
俺の頭が彼女の名前を弾き出すのと、千景が彼女の名前を呼ぶのは、ほぼ同時だった。


「こんな所で何してるんだろう?」
こんな、人気のないところで、しかも人の視線を気にしながら…。
………。
これは、ひょっとすると…。

「千景…記事の事、どうにかなるかもしれないぞ」
「え?」
頭の中に閃いた案に、俺は顔が自然と綻ぶのを感じた。









32:白木さんの秘密/千景視点

「どうにかなるかもしれない」と言う悠斗の言葉に後押しされて、俺は悠斗と一緒に彼女を捜した。
勿論、見つからないようにコッソリと。

捜し始めて、数分。
大体どの方向に向かっているかは分かっていたので、見つけることは割と簡単だった。
この学園で最も人気がないと言われる、旧校舎裏…。
愛の告白の場所に使われる事が多いと呼ばれるこの場所に、白木さんはいた。
まだ声しか聞こえないけど……確かに、彼女の声だ。
だけど……なんだか、話し声に聞こえるのは気のせいだろうか…?
彼女は確か、一人でこの校舎裏に向かっていたはずなのに…。

隣の悠斗を見れば、予想済みだったのか、平然とした顔で聞き耳を立てている。
俺も、俺に習って、物陰からソッと聞き耳を立てることにした。


「ねぇ、やっぱり私、貴方が好きなのよ…。だから、一緒にいたいの」
「でも、もしバレたら…お前まで退学になるぞ? 俺は別に…仕事なんていくらでも探せるけど、お前は…」
「バレなければ良いのよ。だから、転勤なんてやめて」
「真琴……」

…………なんだか、この会話は…。
恋人同士の会話、であることは間違いなさそうなんだけど…。
何というか……内容から察するに、これは……。
教師と、生徒の…会話みたいだ…。

内心でドキドキしながら聞いていると、不意に、悠斗が行動に出た。
俺の脇をスッと抜けて、彼らから見える位置まで足を踏み出す。
俺は、慌てて止めようと手を伸ばしたけど、彼は難なくソレをすり抜けてしまった。
「まるで恋人同士みたいな会話ですね?」
悠斗の声が辺りに響けば、そこで初めて気が付いたように、彼らはハッとコチラに目を向けた。


「観月くんっ…と、近江さん…!?」
酷く驚いた様子で、白木さんが俺たちの名前を呼んだ。
その隣では、確か…数学の、二之宮先生が、同じように驚いた表情を浮かべている。
同時に、彼らは焦りの表情も浮かべていた。

その胸中を読み取るように、悠斗は静かに笑った。










33:二面性/千景視点
「こんな所で密会なんて…迂闊でしたね」
この、顔は笑っているのに、ゾッとするほど冷たい表情を、俺は見たことがある。
最初に会った時…見せた表情だ。
………少し穏和になってきたから忘れていたけど、悠斗って結構平気で酷いことする人だったんだ…。
でも、今回のコレは何か、作戦があるんだろう。
そんな雰囲気を感じさせた。

「っ……誰かに、しゃべるのか…?」
顔をしかめながら、二之宮先生が漸く声を絞り出した。
その言葉に、悠斗は、「愚問だ」と言わんばかりに鼻で笑う。
「こちらの言うことを聞いてくれるなら、黙ってますよ」
一応敬語は使っているけど、その口調は完全に上から物を言っている。
だが、そんな事も気にならないほど余裕がないのか、彼はグッと悠斗を睨みながら押し黙るだけだった。
その様子に笑みを深めて、悠斗は言葉を続けた。

「今朝、新聞部が出したあの記事…。「俺と千景は何でもない」と、訂正してくれませんか?」
「なっ……一度出した記事を訂正するなんて、そんなのっ…」
悠斗の言葉に、案の定白木さんは抗議の声をあげた。
確かに、新聞の記事を訂正するなんて…評判を下げるのも良いところだ。
そんな抗議も予想済みだったのか、悠斗は平然とした様子で言葉を返した。
「俺と千景の事は、秘密にしておかないといけないんだ。丁度、君たちのように」
「普通の男女交際なんだから、別に良いじゃない…!この学園は別に禁止もしてないし!」
……普通じゃないし、しかも男女でもないし、しかもそれ以前に交際すらしてないんだけど…。
まぁ、この際その事には目を瞑ろう。

半ば開き直ったように言った白木さんの言葉に、悠斗は目を伏せた。
そして、少し大げさに溜息を吐きながら、
「分かった……理由を話そう」
と、切り出した。

え…?
ちょ、ちょっと待ってよ…!
理由って、俺の女装の…!?

嫌な予想が頭によぎって、俺は慌てて彼の言葉を止めようと、口を開いた。
「ちょ、ちょっと待っ」
「俺の両親に知れると、彼女と別れさせられるんだっ!」
青ざめた、俺の言葉を遮るように。
彼は、大まじめな顔で、握り拳を震わせながらそう言った。









34:演技なんだから…/千景視点
「……………」

…………は…?

思わず、思考が一時停止する。
恐らく目が点になっているであろう俺の事など気にも留めず、彼は言葉を続けた。
「俺の両親は医者なのは、知ってるだろう?
 だから…両親は、ある程度学歴のある家の子としか付き合いを持ってはいけないと言うんだ」
「え…?ちょっ、ゆう…」
「良いから調子を合わせろ」
「どういうつもり?」と、訪ねようとすると、悠斗は小声でそう答えた。
その言葉に、彼の作戦に漸く気が付いて、必死で思考を回転させながら彼に調子を合わせる。

「そ、そうなのっ…。私のウチって片親だから、色々とよく思われてなくって…」
「噂は広まるのが早いから…どこから俺たちの事が、ウチの両親に漏れるとも限らない。
 今までの彼女も、そうやって別れさせられてきた。
 でも、千景だけは…どうしても、傍にいて欲しいんだ…!」
悠斗……なんだか、迫真の演技だ…。
思わず本気にしてしまいそうで、心の中は必死に冷静になるように「コレは演技なんだ」と繰り返す。

……でも、もしも演技じゃなかったら…って、思ってる…。
そしたら俺は……彼の言葉に、なんて答えるんだろう。
もしも、演技じゃなくて、本当に心から、「傍にいて欲しい」と言われたら…俺は……。

………違う。
演技なんだ。
だから、頭を切り換えなきゃ。
あんな風な、ゾッとする笑顔を浮かべる人が…そんな事、考えるはずがないんだ。


「そう言うことなら…仕方ない…わ…」
必死に思考を切り替えようとしている俺に耳に、白木さんのそんな言葉が入ってハッとした。
白木さんは、同情に満ちた表情を浮かべている。
見れば、二之宮先生も同じような表情だ。

……なんとか、上手く行ったみたい…だ。
内心ホッとして悠斗を見れば、彼も安堵の表情を浮かべていた。












35:聞きたいこと/悠斗視点

演技のはずだったのに、途中から半分、演技じゃなくなっていた。
きっと千景は、全てが演技だと思っているんだろう。
だが、俺にとっては…本当の言葉だ。

傍に、いて欲しい…。

……叶わない、事なのかも知れない…。
あんな形で出逢ったんだから、叶わない確率の方が高いんだろう。
いっそこのまま、友達として…一緒に、いた方が…。

幸せ、なんじゃないだろうか?


……嫌われたくない。
千景にだけは、絶対に…。



その日の昼休み、校内の新聞は全て訂正と謝罪の記事に貼り替えられた。
行動が早い辺りは流石、と言えるだろう。
昨日だって一晩で写真現像して、朝には印刷していたし…。
今は有り難いが、昨日の出来事が今朝記事になっていたのはさすがに驚いた。

まぁとにかく、おかげで妙な誤解も解けて、視線が集まる事はなくなった。
まだニヤニヤと見ている人間もいるが…まぁ、時間が経てばそれもなくなるだろう。


そして放課後。
千景と一緒に演劇部へ行ったが、今日も部長と副部長不在の為、練習はないそうだ。
腹筋と発声練習だけやっていたので、とりあえずそれだけでもやって、帰ることにした。

下校時刻は三時四十分。
昨日とほぼ同じ時間だ。

俺の隣を歩く千景は、何故か先ほどから黙っている。
…そう言う俺も、言葉が見つからなくて、黙っているけど…。
なんだか昨日も同じような雰囲気だったな…と思い出しながら、ふと、今朝の彼の言葉が頭によぎった。

−−片親だから

あれは、本当の事…なんだろうか…。
片親と言うことは、どちらかがいないと言う事なのだろう。
離婚か、あるいは死別か…。
死別なら、聞くべきではないのかもしれないけど……気になる…。









36:真偽/悠斗視点

「今朝言ってた事、どこまで演技だった?」
沈黙に耐えきれないのも後押しして、俺は、「気になる事」を口に出した。
なるべく遠回しに問いかけると、彼は「え?」と首を傾げながら顔を上げた。
その様子にソッと苦笑しながら、言葉を足す。
「今朝……その、片親…って」
「………ああ、アレ…ね」
俺の言葉に対して、彼は、どこか引きつった笑みを浮かべた。


……マズイ。
聞くべきではない方の予想が、当たっていたのか…?

自分でも分かるくらいに顔をしかめながら彼の返答を待っていると、彼は不意に、俺から目を逸らした。
「ちょっと、色々事情があって…離婚……じゃないか…。うーん…とにかく、父親が…別居状態、って感じかな…」

父さん、ではなく、父親、と呼んでいるのが、妙に引っかかった。
だが、深く追求してはいけない事柄と直感し、口を閉ざす。

黙って彼を見つめていると、彼は、無理矢理と分かるような笑顔を作って、言葉を放った。
「まぁ、大した事じゃないから気にしないでよ。それより俺は、悠斗が言ってた事の真偽が気になるんだけど…」
「え…」
よっぽど焦っているのか、男言葉になっている。
だが、ソレには敢えて触れずに、俺は足を止めた。

真偽って…傍にいて欲しい…って、事か…?
……もしかして、気にしてくれてたのか…?

自分でも、顔が赤くなっているのが分かる。
どうしよう…。
何て言うべきだろう……。

と、とにかく、何か答えないとっ…。
「あ、そ、その事は…」
「前に彼女いたけど別れさせられたってホント?」

……………。

「……は…?」
思わず、目が点になる。








38:好きなのは…/悠斗視点

期待していただけに、普段はなかなか感情を表情に出さない俺が、思いっきり表情に出してしまった。
彼は、そんな俺の様子に気が付いていないのか、構わずに言葉を続ける。
「やっぱりキスも慣れてたもんね…。悠斗って結構、スケコマシだったとか?」
そう言って、冗談っぽく笑う彼。
いや、冗談のつもりなんだろうが。

そんな事を冗談めかして言われると…。
ますます、眼中にないと明言されているようで…。
心の中で何かが、沸々と沸いた。

これは、苛立ちだ。
でも、どうして?
………理由はだいたい、分かる。


相変わらず戯けた様子で笑っている彼の腕を、俺は強引に引っ張った。
反動でよろけながらも、彼は俺に振り返る。
その表情は、最初に会った時のように、驚愕で満ちていた。
「違う…。 アレはただの演技で、そこまで本気で付き合った子なんていなかった」
「……ゆう」
「俺が好きなのはっ…」
彼が何か言おうとしたが、反論は許さないと言う意志を見せつけるように、言葉を放つ。
彼は、ビクッと小さく震えながら口を噤んだ。

まっすぐに見つめる彼の表情は、酷く、怯えたようにも見えた。


「………俺が、好きなのは…」
「…………」

言葉は、声にならない。
何度も何度も頭に浮かぶのに。
喉のあたりに引っかかって、出てこない。

そうして見つめて、どのくらい経っただろうか。
暫くの沈黙の後…。
もう、こうなれば言ってしまおうと決意し、大きく息を吸い込んだ、瞬間だった。
「あれ? 悠斗くんに千景じゃない!何やってんの?」
不意に、聞き覚えのある声が耳に届いて、パッと手を離す。

自分でも、顔が真っ赤になっているのが分かるくらい熱い。
それでも平静を装いながら、俺は向かってきた人物…斎藤美弥に振り返った。
「な、なんでもない…。じゃあ、俺はコッチだから」
それだけ言って、俺は、彼らに背を向けて足を進めた。


ドキドキと、鼓動が煩い。
千景の反応が気になるけど、俺は振り返ることが出来なかった。

そのまま、足早に、誰もいない家へと急いだ。



あぁ…俺って、情けない…。









38:今は知らない、痛み/千景視点

ビックリした。
また、あの恐怖すら与える激しいキスをされるのかと思ったくらい。
そのくらいの、気迫を放っていた。
美弥が来なければ…悠斗は何て、言ってたんだろう…。


……そう言えば…。
悠斗、美弥が来た瞬間に、顔を赤らめてたな…。

……ひょっとすると、さっきのってもしかして、警告しようとしてたのかな…?

『俺が好きなのは美弥だから、あまり近寄るな』
って……。

そ、そう言えば、二人って同じ中学だって言ってたし…!
………じゃあ…。
悠斗が好きなのは、美弥…?



「千景? どうしたの?」
「え?」
思わず足を止めてしまって、美弥が首を傾げながら振り返った。
その問いかけに、「何でもないっ」と慌てて答えながら、俺は小走りで彼女の隣へ足を進めた。



……そっか…。
悠斗は、美弥が好きなんだ…。
美弥は、誰が好きなのかな…?

…………。
なんだか、変な感じだ。
美弥とこうして話しているのが、辛い。
心が痛い。
笑いが引きつる。



ズキズキと、心が、悲鳴を上げている。
でも俺は、敢えて無視をした。
心に今は、蓋をした。


これが何の感情か、気が付いてはいけない気がして。
俺は、この感情を、自分にも秘密にした。


それは、まだ知らない、心の痛み。

ずっと知りたくない、心の痛み。


あぁ……なんだか、息が苦しいな…。



俺の心とは裏腹に、澄み渡った空が映す夕日は、とても綺麗だった。











第三章へつ・づ・く★






〜あとがき〜
はい、第二章終了です。
ちょっと強引な終わらせ方ですけど…。
本当は、悠斗がもっと白木さんをトコトン脅して記事を訂正させる予定でした。
勿論その予定の時は二之宮先生の登場予定はなく、白木さんの恋人になるのは別の人でした。
それが、次の章に出てくる中村です(笑)
と言うわけで中村は、最初は白木さんのパシリ役でした。
どのみち雑魚的なキャラですね…(笑)
第二章は本当はもっとギャグテイストたっぷりな話だったのですが、途中で路線変更しちゃって、こんな強引な形に…。
でも、書きたい所は書けたので、良しとしてやってください(笑)

はい…最後に次回予告です。


〜次回予告〜
今回の次回予告は、私、白木真琴が担当します!


桜も散り始めた時期、遠足へ行くことになった一同。

そしてその日、些細なことから二人は喧嘩をしてしまう。

だけどそんな時ハプニング発生!

なんと、千景が崖から転落してしまった!

果たして千景の運命は!?

そして、「竜くん」とは一体…!?


次回、第三章・遠足はトラブル満天…!?

次回もジャーナリスト根性で、お楽しみにっ♪



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